附家老

　人間が生きているということは、良心と一緒に歩いているということになるのです。良心とはどういうものかが、日本人はよく分からないのです。

　これは欧米社会でも言えるのですけれど、良心は自分自身の考え方ではないのです。だから、良心というのですが、人間の常識から良心は出てこないのです。倫理、道徳という考え方の中からも出てこないのです。

　むしろ人間の倫理道徳を良心は批判しているのです。このことをよくご承知頂きますと、皆様が聖書が分かりにくいと言われることの基本的な解決になると思われるのです。

　徳川幕府の話ですが、家康が自分の息子たちを大名にしました。尾張藩の義直、紀州藩の頼宣、水戸藩の頼房がいわゆる御三家です。息子たちを大名にしまして、自分自身の腹心の部下を御附家老として置いたのです。

　御三家は独立した大名ですけれど、最も近い親戚大名でありまして、将軍の後継者がいない場合には、御三家の中から選出することになっていたのです。そのために、徳川幕府の意識が最も正確に、また、鮮明に伝達されなければならないので、家康の腹心を附家老にしたのです。

　安藤直次を紀州藩の附家老にしたのです。尾張には竹腰正信、水戸には水野分長を置いた。この人に家康は「私の代理人になっていくのだ。徳川家康に反することをしたら、私の代わりに叱りつけろ」と命令したのです。

　人間の良心はこれと同じことです。良心は皆様の霊魂の親からの附家老です。皆様の常識や皆様のご都合には服従しないのです。紀州の徳川頼宣が、堺の商人から鉄砲五百丁を黙って買い込んだのです。このことが徳川家に知れまして、徳川総家から安藤直次の方へ伝えられたのです。

　安藤直次は知らなかったのです。直次はびっくりして頼宣の所へ行って、「殿」と言って怒鳴りつけて、膝をつけ合わせて座り込んだのです。「殿、鉄砲」とだけ言って、膝を押さえ付けて絞り上げたのです。締め殺すような勢いで怒鳴りつけたのです。そこであまりの痛さに耐えきれず、頼宣は鉄砲の買い入れを解約したのです。

　こういう役が皆様の良心です。ところが、今の人間は近代文明によって良心を馬鹿にする癖がついてしまったのです。文明の名によって自分自身の良心を馬鹿にしているのです。これが人権思想です。

　人権という考えは人間の本質を堕落させる最も悪い思想です。今の日本の行き詰まり、世界の文明の行き詰まりは、すべて人権思想から出てきているのです。

霊と魂

　今皆様が生きていること、皆様の心臓が動いていること、即ち生理機能、心理機能の根源が魂です。皆様の人生が霊です。

　霊という言葉がなかなか難しいもので、二通りの解釈があるのです。人間が生きているということが霊です。人生ということが霊そのものです。

　人生が霊です。三十年生きていたとか、五十年生きていたということが霊です。それから、人間の感覚によらないで、人間の本源に基づいて考えることが霊です。二通りの考えがあるのです。

　生きているということは、人間の命の本質が有形的に働いているのです。私たちの目が見えること、心臓が動いていることが霊です。これは命の本質が本質的に働いているのです。この状態が霊です。

　魂というのは機能を指すのです。生きている状態は霊です。霊と魂とがあるのです。霊は人生です。魂は人生の機能です。

　ところが、霊も魂も自分で造ったものではありません。自分の命は自分で造りようがないのです。前世から継続したものです。生まれる前から繋がっているのです。

　仏法でもこのことを言うのでありまして、「生まれる先の父ぞ恋しき」という臨済の言葉があるのです。

　「闇の夜に鳴かぬ烏(からす)の声聞かば、生まれる先の父ぞ恋しき」というのが、臨済の奥義だと言われているのです。これは聖書で言えば、奥義というよりも入口になるのです。

　闇の夜ですから真っ暗です。闇の夜にカラスがいてもさっぱり分からないのです。真っ暗ですから見えないのです。そこにカラスがいるのです。しかも鳴いてないのです。鳴いていないカラスの声を聞くのです。そうすると、生まれる先の父が分かると言うのです。

　これは人間の命の本性をどういう気持ちで掴まえるかという心得の基本になるのです。臨済の禅の中で、この歌はかなり上等の方です。

　大体、禅宗の悟りは、碧巌録でも無門関四十八則でも、聖書の角度から見ると簡単に分かるのです。結局人間がこの地球上に生きていることが間違っていると言っているのです。

　闇の夜に鳴かぬカラスの声を聞くことはできないのです。カラスを見つけようがないのです。こういう感覚が千利休の一期一会の基本的な原理になるのです。これが日本文化の根源になるのです。

　日本文化は非常に格調が高いものですが、日本文化の格調が高い基礎とは何かと言いますと、空からきているのです。般若心経の空からきているのです。

　平安時代の王朝文化の基本的な概念は空です。物の哀れという考え方です。物の哀れというのは、王朝文化の基礎になっていますが、これが古今集、新古今和歌集に出ているのです。

　「月見れば　ちぢに物こそ　悲しけれ　わが身ひとつの　秋にはあらねど」という大江千里の歌がありますが、なぜ秋はこんなに淋しいのかと歌っているのです。

　そのように日本人は物の哀れを感じます。これが王朝文化の特長であって、これが日本文化の特性です。こういう思想は世界の文明国の中では、何処にもありません。これは般若心経からきているのです。

　般若心経の思想は、人間の文化概念の中で最高のものです。理性批判と言いますけれど、ドイツ観念論はとても及びません。般若心経の足元にも寄りつけないのです。般若心経ははるかにレベルが高いのです。

　日本人は般若心経を愛しているのに、その意味が全然分かっていないのです。日本文化の基礎にしているほど愛しているのですが、般若心経の意味が分かっていないのです。

　なぜそういうことになるのかと言いますと、般若心経を宗教の経典として見ているからです。だから、まともに読もうとしない癖がついてしまっているのです。皆様はこれを改めて頂きたいのです。

　本気になって般若心経を読んで頂きたいのです。そうしますと、行き詰まりとか、わだかまり、苦しみ悲しみが全部消えてしまうのです。

　消えてしまうだけでなくて、死なない命を見つけるための非常に明瞭なスタートラインになるのです。これを実行して頂きたいのです。

　皆様は般若心経と聖書の内容が、どうしても分かりにくいと思われるのですが、分かりにくい原因は何かと言いますと、自分の気持ちを立てた上で、自分の気持ちで理解したいと考えるからです。

　自分の気持ちを基礎にして、般若心経と聖書を理解したいと考えるから、分からないのです。

　皆様が自分の気持ちを立てなければならないというのは、なぜでしょうか。なぜそう考えるのでしょうか。自分を満足させなければならないと、なぜ思うのでしょうか。

　自分の気持ちを満足させるために般若心経を勉強するとしますと、初めから般若心経に相反する立場から出発することになるのです。

　般若心経は五蘊皆空と言っています。人間の常識や知識が間違っていることを、最初から述べているのです。五蘊皆空を前提にしている般若心経を読む場合に、自分の概念や自分の経験を基礎にして読むことになりますと、初めから般若心経と激突することになるのです。

　これが現在の文明が転落してしまった根本原因です。ドイツ哲学は、自分の心理構造を理解しようと考えて、哲学概念を構築しているのです。白人の哲学は皆そうなっています。

　自分自身の心理構造を分解して理解しようとしているのです。自分の気持ちを合理化しようと考えて、哲学しているのです。

　日本人の考えは反対です。自分自身の考えを空じてしまおうという所をから出発しているのです。白人の文化概念の基礎と、日本人の文化概念の基礎とは大変な違いがあるのです。

　白人の考えでドイツ観念論を構築していますから、すぐに行き詰ってしまったのです。カントは物質があることの説明はできますが、物質がなぜあるのかという説明はできないと言っているのです。初めから兜を脱いでしまっているのです。

　なぜ兜を脱いでいるのかと言いますと、カントは最初は数学者でありまして、物質が存在することを最初から認定しているのです。カントはキリスト教概念についても、相当深い造詣を持っていたようです。キリスト教の神観を否定することができなかったのです。その立場から考察していたのです。

理性

　カントが考える理性は本当の理性ではないのです。現在この地上に生きている宗教国民としての理性という感覚程度のものです。カントは理性とは何かを一切説明していません。理性批判の哲学を書いていながら、理性の本質が何であるかの説明をしていないのです。純粋理性と実践理性に分けて説明しているだけです。

　人間が生きている状態だけの説明をしているのです。これがドイツ観念論の中心思想です。人間が生きている時の理性の働き方の説明をしているのです。これは理性の働きの説明であって、理性そのものの説明ではないのです。

　従って、純粋理性という言葉を使うことがおこがましいのです。カントは理性の本質を知らなかったのです。なぜかと言いますと、神が分かっていなからです。カントは正直に「私は神が分かりません」と言っているのです。

　神があることは信じるが、神の実体は分からないとカントは言っているのです。こういう考え方が、白人哲学の基礎になっているのです。

　デカルトは、「我思う故に我あり」と言っています。こういう全く浅はかな思想が、白人哲学としてもてはやされていたのです。今でももてはやされているのです。

　白人はキリスト教の神を信じているのです。だから、本当の神が分からないのです。キリスト教の神を信じてしまいますと、本当の理性は分からないのです。キリスト教の神学が絶対になるのですから、これに反抗することができないのです。従って、良心とは何であるのかが分からないのです。

　パウロは新約聖書の中で良心について書いていますけれど、キリスト教の人々は読んでいながら分からないのです。

　日本人は空観を学んでいますが、空というのは良心的です。良心的ですが、空の本心がはっきり分かっていないために、良心の根源が説明できないのです。

　人間の良心とは何であるかの説明ができないのです。皆様の中に、皆様の行動や思想を批判する非常に強い意識があるのです。ところが、この強い意識が何であるのか分からないのです。

　皆様は自分の気持ちでやりたい放題のことをやろうとしてもできません。何か恐いようでできないのです。誰もいない部屋にいても、それほど変な格好はできないのです。

　なぜできないのでしょうか。自分しかいないのですから、勝手なことができるはずですができないのです。

　自分一人だけでいても、一定の規矩というのがあるのです。いわゆる良心的な則があるのです。この則を越えることができないのです。

　皆様の中には皆様自身でないものがあるのです。これが良心です。御三家の附家老のようなものです。皆様はこの世に生まれてくる時に、父なる神から家老を一人つけられたのです。これが人間の宗教心の原因です。

　人間の宗教心は何処からきたのかと言いますと、自分の良心からきているのです。神仏をばかにすることができない気持ちが、人間の精神構造の中心にあるのです。これが宗教の始まりです。

　ところが、その良心の本当の姿がよく分かっていないために、誠の神ではない神を神のように考えて、神学とか教学を信じることになるのです。今の日本のように偶像だらけの国になってしまうのです。

　これは日本だけの現象ではありません。世界中の国がそうなっているのです。アメリカもヨーロッパも、アジアも同様です。

　本当の良心が分からないからです。本当の良心が分からないという点では、日本人も欧米人も同じことになるのです。

　良心とは何か。自分の心理機能の中にありながら、自分の行動を批判しているのです。これを冷静に考えれば、命が自分のものではないことが分かるはずです。

　お茶やお花の真髄とは何かと言いますと、人間の良心的な感覚に一致するセンスを持っているのです。利休は、「お茶とは茶をたてて飲むことなり」と言っています。茶をたてて飲むことなりという簡単な言葉の中に、人間の良心的な平安さがあるのです。

　お茶には人間の良心的な行動と一致する文化性があるのです。これが欧米社会にはないのです。欧米人が倫理とか道徳とかいう言い方をしますけれど、それでかろうじて人間の中にある良心と妥協しようと考えているのです。

　しかし、人間の道徳は本当の良心に添うものではないのです。人間の道徳は人間の頭で造った道徳です。だから、人間の行動を完全に看視するとか、自分の利害得失を批判することができないのです。

　十四世紀から十六世紀にかけて、イタリアを中心にしてルネッサンス文芸復興運動が起こりました。また、十八世紀にはフランスを中心にして啓蒙運動が起こりました。啓蒙思想から人権思想に流れていきました。これは皆ユダヤ人の仕事です。これが今日言われている学問の流れです。

　皆様が大学で勉強したのは、こういうものばかりです。

　文芸復興を専門に勉強している大学の教授が、文芸復興の本当の意味を知らないのです。文芸復興の流れの説明はしますけれど、文芸復興の本質的な価値については知らないのです。

　電気工学の教授は電気の取り扱いの説明は致しますけれど、電気そのものの説明はできないのです。学問というものは皆そういうものです。流れていること、動いていることの説明はしますけれど、経済の本質、政治の本質に関する説明はできないのです。これがユダヤ主義の特長です。

　現代の文明はそういう文明です。根本がない文明です。家は建っていますが礎がないのです。だから、世界が行き詰るのは当たり前です。

　今、世界は完全に行き詰っているのです。その原因は何かと言いますと、良心に対する明確な捉え方をしていないからです。人間の良心とは何であるのか。なぜ法律を守らなければならないのか。人間の命がなぜ尊いものであるのか。政治の根本原理は何であるのか。こういうことは良心が分からないと解明できないことなのです。

　ドイツ観念論をいくら勉強しても良心は分かりません。日本文化についても同様です。王朝文化の随筆や日記をいくら勉強しても、ロマンチシズムは分かりますけれど、空の本質は分かりません。王朝文化は空からきていますけれど、空の本質は分からないのです。しかし、空観からきているということだけでも、非常に貴重な存在です。

　文明国の中でも、般若心経は日本だけに存在しているのです。形式的で空は分かりませんけれど、とにかく日本には空という思想があるのです。日本以外の国では空という思想が全くないのです。

　皆様の命は皆様のものではありません。その証拠に、皆様の霊魂には良心という監査役がついているのです。

良心とは何か

　良心をじっくり考えてみるという癖が皆様につけば、永遠の生命を見つけることはできるのです。

　皆様の良心の本質は皆様の魂の掟になっているのです。霊魂の掟になっているのです。

　イエスが次のように言っています。

　「あなたを訴える者と一緒に道を行く時には、その途中で早く仲直りをしなさい。そうしないと、その訴える者はあなたを裁判官にわたし、裁判官は下役にわたし、そしてあなたは獄に入れられるであろう」（マタイによる福音書5・25）。

　この箇所がよく分かれば、皆様の命の本体が分かるのです。ところが、これを明確に説明できる人が世界にいないのです。何のことか分からないからです。

　あなたを訴える者と一緒に道を行くと書いていますが、人間が現世に生きているのは、自分が生きているのではないのです。皆様の命は客観的なことであって、主観的なことではないということです。

　このことを仏教でも概念的に言っています。自分の命は自分のものではないのです。即身是仏という考え方が、このことを意味しているのです。ところが、自分の心がなぜ仏になるのか。即身是仏の根本原理は何であるのか。やはり分からないということになるのです。

　良心は皆様の行為、思想、考え方を監視しているのです。監査役になっているのです。

　皆様の命が自分のものではない証拠に、良心が自分の言行を監視しているのです。大名の当主でも附家老をばかにするとひどい目に会うのです。そういことを良心はしているのです。

　良心は皆様を地獄へ追い込みたくないという神の愛の処置なのです。皆様の霊魂にはどうしても良心がいるのです。良心がないと人間は何をするか分からないからです。

　例えば、孔子、孟子、老子は良心を基礎にして処世術を説こうとしたのです。老子の場合は、良心というよりも理性を基礎にしたと言った方がいいのですが、孔子と孟子は良心によって考えているのです。

　理性と良心は違います。理性は理を尊ぶのです。誠を探求するのです。真理とは何かを追求するのです。良心は善とは何かを探求するのです。

　真理を探求する機能と、善を探求する機能と、二つのものが人間の霊魂的人格の基礎になっているのです。この二つ以外には人間の学はないのです。理性的に真理を追求するか、良心的に善を追求するか、これ以外に学は無いのです。

　この他の学を近世文明でユダヤ人が造ったのです。これが科学主義、合理主義と言うべきものなのです。これは人間の生活を第一に考えているのです。

　本当の学というのは理性的に真理を追求するか、良心的に善を追求するかということです。これは命を勉強することなのです。ところが近世文明において、命を勉強することをやめて、生活を勉強することを始めたのです。これがユダヤ主義です。

　生活主義という考え方は、現世に生きている間は活用できるのですが、これをしていますと、皆様の魂は盲目になってしまうのです。生活に一生懸命になりますと、魂のことは全く疎かになるのです。

　その結果、自分の実体が分からなくなるのです。ただこの世で生きていることだけが善のように考えられるのです。

　訴える者は良心です。これが無形の掟になっているのです。訴える者と道を行く時とありますが、人間は訴える者と一緒でなければ道を行くことができないのです。

　人生行路は訴える者と一緒でなければ成立しないのです。私の若い時のことを考えますと、良心をごまかして生きていたのです。良心をごまかさなければ生きていけないのです。なぜそうなるのかと言いますと、私たちがこの世に生まれてきたことがカルマだからです。業(ごう)です。

　パウロは、「私は肉につける者であって、罪の下(もと)に売られているのである」と言っているのです（ローマ人への手紙7・14）。

　魂は人間の機能であって、機能の本質は命の本質に通じるのです。皆様の五官の機能の本質、本性は皆様の命の本質に通じるのです。

　善とは何かと言いますと、善とは命の道のことです。万物が存在している道です。花は道に従って咲いているのです。

　太陽光線は道を光線という状態で現わしているのです。道というのが本当の意味でのエネルギーになるのです。エネルギーというのは命の本質のことです。

　命の本質は思想的に展開すると同時に、物理的にも展開するのです。物と心は本来一つのものです。一つのものが二つに分かれているのです。物と心は本来一つのものです。霊というのは物と心を一つにした言い方です。唯物論でもないし、唯心論でもない。この二つを一つにしたのが霊です。物心一体の状態が霊です。

　道は心の方を指しているのです。命の道は心を指しているのです。

　仏道というのは道を悟ることです。仏(ほとけ)というのはほとけることであって、人間の思想が錯綜しているのをほどいていくことです。これが仏です。

　道に対する人間の心をほどいていくのです。これが仏道です。道は何処からきているのかと言いますと、命からきているのです。道は命の本質を思想的な角度で表現したものです。

　命を存在的な角度で表現すると、真理になるのです。科学はこれをしているのです。政治、経済もこれをしているのです。

　法律、文学、芸術は、命を思想的な角度から表現しているのです。こういうことは知っておかなければならないことです。

　皆様には知って頂きたいことと、信じて頂きたいことがあるのです。

　物の道理とか、論理性ということは知って頂かなければならないことです。信じて頂かなければならないことは、本質に関することです。

　本質は説明できないことです。説明ができないから本質というのです。説明ができたら本質とは言わないのです。

　皆様の目は見えますが、目が見えることは分かりますけれど、見えるとは何であるかが分からないのです。これは信じて頂かなければならないのです。

　皆様の生活には知る面と信じる面とがあるのです。これがなければ生活ができないのです。

　良心は善を求めてやまないものですが、善の究極は何であるのか。なぜ善が善でなければならないのかということです。善は道です。道は命です。だから、求めざるを得ないのです。

　命は物理的な面と、心理的な面との二つに分かれているのです。命は現世の人間が存在する根本的なものでありまして、人間が造っているものとは違うのです。

　命は人間存在の本質、本性であって、人間の考えによって左右できるものではないのです。

　自分が生きているという考え方は、根本的に間違っているのです。これは何回申し上げてもなかなか理解して頂けないことです。

　私自身も自分が生きているのではないことを百も承知しているのですけれど、何かのことをきっかけにして、自分が生きているという気持ちが沸き上がってくるのです。私はその気持ちを捨ててしまいますけれど、時々沸き上がってくるのです。これがいわゆる悪魔のいざない、誘惑です。

　肉体的に生きている時には、自分が生きているという気持ちがいつも沸き上がるのです。これに誤魔化されるとひどい目に会うのです。良心が睨むのです。

　まず皆様は、良心の光がはっきりした人になって頂きたいのです。そうすると、命の本質が分かってくるのです。良心の光がはっきりしない人間は、命の本質を掴まえることは不可能です。

　良心が睨んでいると言いますと、窮屈な生き方のように思えますが、窮屈ではない良心の受け止め方ができるのです。

　どうしたら良心と仲良くできるのか。今生きている命が仮のものだということに気が付くことです。仮定の命なのです。

仮の命

　今生きている命は本物ではない。仮の命なのです。仮に存在している命だということに気付いて頂きたいのです。なぜなら、皆様はやがて死んでしまわなければならないに決まっているからです。

　死んでしまわなければならないに決まっているというのは、仮に存在しているということです。これが本当に分かりますと、良心と仲良くできるのです。

　人間は現世に仮に存在しているということを、どうしても知っておかなければならないのです。なぜ仮の命であるのかについては、ある程度理論的な理解が必要です。

　般若心経は色即是空と簡単に言っています。不生不滅、不垢不浄、不増不減と簡単に言っているのです。すべて存在しているものはないものだと言っているのです。

　存在しているものが実際にないものかどうかです。皆様の頭には、この世に生まれてきたというカルマがあるのです。カルマというのは本当に困ったものです。

　カルマは業(ごう)です。この世に生まれてきたことが業です。この世で生きていることが業です。この世に生きていることが本物だと思い込んでしまいますと、命が分からなくなるのです。

　現在、人間がこの世で生きていることがカルマです。肉体的に生きているということがカルマです。これは半分は認識しなければならなことですが、半分は信じなければならないのです。

　皆様はこの世に何十年も生きてきました。色々な経験をしました。それが何の役に立ったのでしょうか。これをよく考えたら、この世に生きていることが、カルマであることが分かるでしょう。

　五十年生きていたが、あまり大したことはなかった。もう三十年生きたら、何か分かるかもしれない。ひょっとするとすばらしいものになるかもしれないと、この世に誤魔化されやすいのです。皆様にはそのように思い込もうとする弱点があるのです。そこで、この世に誘惑されるのです。

　誘惑という言葉で一番分かりやすいのは、男女関係です。これは誘惑の典型的なものです。

　誘惑されないような人間はだめですし、しかし、誘惑されてしまったらだめです。困ったものです。女に惚れないような人では神は分からないのです。ところが、女に惚れ込んでしまうと、神が分からないのです。不離不即の関係で、ひらりひらりと体をかわしていかなかったらいけないのです。

　魂の道というのは、恋の道と同じようなものです。人間の恋は、どのようなカーブを描いてミットの中へ入っていくのかということです。

　神が男と女を造ったということです。これが命の不思議さの第一です。

　神が人間を造ったのはなぜか。万物の長となるために造ったのです。神自身が複合人格です。単一人格ではないのです。これが仏と違う点です。

　阿弥陀如来は単一人格ですが、厳密に考えると複合人格になっているのです。しかし、仏教では阿弥陀如来を複合人格として扱っていないのです。

本当の命が神ですが、命は組立て方式になってできているのです。中心になる原理と、原理が法則化される意味での原則があるのです。

　花が咲くという原理があります。花はどんな格好で咲くのか、どのように咲くべきかということを考えることが必要です。ところが、赤い花なのか、白い花なのか、四弁か、五弁か六弁か、形、色、香りが皆違うのです。花が咲くという原理に対しては、具体化されるための法則がいるのです。原則は法則的なものです。それを具体化するための力がいるのです。原理と原則と原動力の三つがあるのです。これを三位一体というのです。三位一体の神とはこういうことをいうのです。

　原理と原則がありますと、そこから力が自然に流れ出るのです。そして、原理は男性を意味し、原則は女性を意味するのです。原理だけがあっても原則がなければ、命として顕現することはできないのです。

　これは例えば夫婦のようなものです。原理のことを聖書は父なる神と言っています。原則のことを言(ことば)の神と言っています。または子なる神です。

　「初めに言あり」というのは（ヨハネによる福音書1・1）、原則のことをいうのです。

　真如があっても、それを証明するためには如来がなければならないのです。真如があることを証明するためには、真如のごとく来るものがなければならないのです。これが如来です。

　如来は女性であって、真如は男性です。命は複合体になっているのです。男性的な実体と女性的な実体とがあるのです。これが交互に作用する形になっているのです。これが力であって、第三の神と言えるものなのです。これがエネルギーの原理でもあるのです。

　三位一体の原理は電気の原理です。太陽光線の原理でもあるのです。皆様は太陽光線という格好で、原理、原則、原動力を経験しているのです。これが恋愛の原理です。

　太陽の光にはとても色気があるのです。こいういうことが分かるように、人間の霊魂はできているのです。父なる神と子なる神はこういう関係になるのです。これは男性と女性の典型になっているのです。

　皆様は命をご存じですが、命には性(さが)がなければならないのです。

　例えば、スーパーマーケットへ買い物に行ったら、性が現われるのです。どういう物が好きか、どういう物が嫌いなのか。自分の命の性が自然に現われるのです。皆その人の行動になって現われるのです。

　性が合うか合わないかということが、恋愛が成立するかしないかということの根源になるのです。

　皆様の命というのは、このような恋愛状態の根源方式で存在しているのです。皆様は肉体的に生きているのですから、何かに頼らなければ生きていられないのです。

　肉体的に生きている人間は必ず死んでしまうのです。皆様は必ず死んでしまう命しか持っていないのです。これが仮の命です。

　皆様は仮の命を持っているのです。そこで、何かに頼らなければいられないのです。何に頼るかによって、その人の命の運命が決定されるのです。お金に頼るか、健康に頼るか、名誉に頼るか、自分の経験に頼るか、学問に頼るか。皆様が頼るものによって、皆様の命の値打ちが決まってしまうのです。

　皆様は何かに頼って生きているのです。何にも頼っていないということは嘘です。皆様は死ぬことを知っています。死ぬことを知っていながら何にも頼っていないということは嘘です。

　死ぬに決まっている人間は、何かに頼らずにはいられないのです。寂しくて寂しくてしょうがないのです。孤軍奮闘という言葉はありますけれど、実行はできないのです。何に頼るかによって皆様の命の本質が決まってしまうのです。

　宗教に頼るとしますと、現世の人間を幸福にすることを約束しますと言うのです。これがインチキです。現世に生きている皆様を幸福にするというのが、現世の神や仏です。

　宗教の神仏は、現世に生きている人間をそのまま認めてくれるのです。人間が極楽へ行けると言いますから、人間が従うのです。

　宗教は、人間がこの世に生まれてきたことがカルマだということを言わないのです。

　この世に生まれてきたことはカルマです。この世に生まれてきた人間は、肉なる者にて罪の下に売られた者です。肉体的な欲望に捉われなければならないような運命で生きているのです。

　肉体的に生きている人間から、肉体的な欲望を抜いてしまうと、何もない空っぽになるのです。肉体的に生きている人間は、肉体的な欲望の奴隷になっているのです。こういう記憶を持ったままでこの世を去ってしまいますと、ひどいことになるのです。

　この世の欲望はこの世に生きている間しか通用しないのです。この世を去ってしまいますと、現世でどのような勉強や悟りを持っていようと、向こうの世界には何の役にも立たないのです。本当の愛を知らないからです。

　本当の愛というのは、現世を超越したものなのです。これがアガッペーの愛です。アガッペーというのは日本語の愛とは違うのです。日本語では超愛ともいうべきものです。仏教でいう慈悲でもありません。

　慈悲というのは、愛の一部の働きをいうのです。本当の愛というのは、相互関係、相対関係であると同時に、相対的な状態から絶対的な形に変化するものです。これが愛です。

　相対的なものが絶対の中へ入って行くのです。二つが並んで永遠の中へ入って行くのです。愛は絶対です。絶対ですが、相対でなければ成立しないのです。相対でなければ完成しない絶対です。

　女性にはこれが分かりやすいのですが、男性には分かりにくいのです。男は頭で考えるという特長がありまして、現世主義にできているのです。理論的、行動的にできているのです。理論的行動的にできていますので、女性のような働きをしないのです。

　例えば、太陽の光は端的にアガッペーを表現しているのです。ところが、太陽の光だけではなかなか分からないのです。

　皆様がご承知のように、すべての植物、動物は、太陽の光がなくては生きていけないのです。万物を生かす力がそのままアガッペーの現われになっているのです。

　神の人格性というのは、太陽光線によって一番よく現われていると考えたらいいのです。これは実は肉体的に皆様を生かすためではないのです。

　皆様が肉体的にこの世に生まれたことがカルマです。カルマによって生きている人間に、幸せを与えることはあり得ないのです。

　この世に生きているままの人間が、そのままで幸せになれるというようなうまい話はインチキに決まっているのです。これが宗教のインチキ性です。死んでから極楽へ行ける、。死んでから天国へ行けると言います。そんなことは嘘であって、でたらめな思想です。

　阿弥陀如来は、法蔵比丘という人が現世に生きている間に成仏したのです。法蔵比丘というお坊さんが、現世に生きている間に成仏したのです。

　ですから、生きている間に成仏しなければだめです。死んでからというのはだめです。ただ一つ死んでからという言い方ができるのは、生きているままの状態で死んでしまうということです。

　生きているままで死んでしまうのです。そうすると、もう一つ分からないという理屈をいう必要がなくなってしまうのです。自分が死んでしまうからです。これを五蘊皆空というのです。これが本当の禅の悟りです。白隠はこの悟りをやかましく言っていたのです。

隻手音声

　白隠の隻手音声(せきしゅおんじょう)という公案があります。両手を打つと音が出るが、片手の打ち鳴らす音が聞こえるかというのです。これが隻手音声という白隠の悟りです。隻手音声が分かりますと、自分が生きていないことが分かるのです。

　現世に鼻から息を出し入れしている状態のままで、自分自身の本体が死んでいることが分かるのです。この世に生きていた者はカルマであって、自分が生きていたのではないのです。自分の形骸があっただけであって、自分の本当の命は自分ではなかったのだということです。これが分かるのです。

　生きているのは自分という人間ではないのです。生きているという事がらがあるのです。しかし、自分はいないのです。自分がいると自分が勝手に思っているのです。一人自慢の誉め手なしということになるのです。独り合点しているのです。

　独り合点の相槌なしとなるのです。自分で合点しているだけです。自分が生きていると考えているのは、自分で勝手に自惚れているのです。

自(うぬ)に惚れるというのは、人間特有の芸当です。人間以外の動物は自には惚れないのです。絶対に惚れないのです。人間だけは自に惚れるのです。

　自惚れている状態では、良心の忠告は聞けません。自分は良いことをしていると言って、自分に惚れているのです。自分の命が自分のものだと思い込んでいますと、自惚れが極点に達するのです。自惚れが極点に達しますと、良心の声が全く問題にされなくなるのです。これが現代人の感覚です。

　良心と絶縁してしまいますと、人間は自惚れの世界に入ってしまうのです。そうすると、自分の命は自分のものだから、五蘊皆空ということを言ってもらいたくないと考えるのです。自分の命について他人からとやかく言われたくないと考えるのです。

　今の人間は自分自身の自惚れだけで生きているのです。その人には自惚れの記憶しかありません。

　宇宙には愛があります。命はそのまま愛に繋がるのです。命の道義的な表現が愛になるのです。命は愛にならなければならないのです。

　皆様の心臓が動いているのは、愛のエネルギーによるのです。皆様の目が見えることが愛の輝きです。皆様が命の愛の働きを受け取れるような気持ちを持つと、良心が皆様に忠告する意味が分かってくるのです。

　自惚れている人には良心の声は一切聞こえてきません。良心のいうことをよく聞いてみようという気持ちが起きないのです。

　そこで、イエスは訴える者と一緒に行く時には仲良くしなさいと言っているのです。すべての人間は訴える者と一緒に生きているのです。良心のない人間はいません。人間は良心を無視するようなことを言っても、その人の良心が働いているのです。

　自分の良心に対して嘘を言うことを一切やめるということをして頂きたいのです。そうすると、初めてこの世に生きていることが、カルマであるということが分かってくるのです。

　現世での愛は本当の愛への入口になるのです。本当の愛が分かっているのなら、恋愛が永遠のものになるのです。ところが、死んだ後に命が自覚できるという人はめったにいません。良心と仲良くしたらそれが分かってくるのです。永遠の命を基準にして良心は忠告しているのです。

　「おまえの考えは間違っている。このままで死んだら大変なことになる」と良心はいうのですが、一体何を基準にしてそういうことをいうのかと良心に聞いて見てください。「私は永遠の命に立っているから、おまえの考えが間違っていると忠告する」と良心はいうのです。

　宇宙には命があります。命波があるのです。宇宙の命波が、皆様の脳波として働いているのです。命波という水源地があって、それが脳波になって働いているのです。脳波が止まったらそれで終わりです。

　皆様の良心は命波から派遣されている大使みたいなものです。魂の声です。これが良心になっているのです。皆様は世間並の人間として生きているので、良心と喧嘩することになるのです。

　良心と喧嘩することは、魂と喧嘩することになるのです。こういうばかなことをおやめになった方がいいのです。

　この世に生きている人間は現世のことだけしか考えようとしないのです。そういうことに対して、いつでも良心は、「それはだめだ、それはだめだ」忠告しているのです。

　宗教はそれを言わないのです。宗教観念を持ってしまいますと、良心を殺してしまうからです。私は神を信じています。私は仏を信じていますから、それでいいのだというのです。こんな理屈は死んでから、一切通用しません。

　私が宗教が悪いものだというのは、こういう意味なのです。宗教の神仏に頼りますと、良心に頼る必要がなくなるのです。宗教が良心の代わりになるからです。寺でそう言っているから、教会でそう言っているから間違っていないというのです。世間の人が何と言おうと関係ないというのです。良心をはっきり踏みにじってしまうのです。一刀両断のもとに切り捨てているのです。

　これが宗教です。日本にはそういう宗教が多すぎるのです。だから、日本人の良心はほとんど死んでいるのです。今の日本人の良心は死んでいるのです。

　学問も同じことをしているのです。学問も一つの宗教です。科学も宗教です。哲学も宗教です。文学も法律も、政治、経済も皆宗教です。

　例えば、法律では人を殺したら悪いと言いますけれど、戦争では何人殺しても悪くないのです。むしろたくさん人を殺したら英雄になるのです。そうすると、人を殺して悪いという法律の説明ができないのです。

　日本の法律は良心の説明をしないのですが、モーセの掟なら説明ができるのです。欧米社会で法律の勉強をするためには、モーセの掟を勉強するのですが、日本ではモーセの掟を勉強しようとはしません。それで法学博士になれるのです。ここに日本社会の弱さがあるのです。

　学問は一つの宗教です。近世文明は宗教です。これは人間が造った概念です。人間はこういうものに酔っぱらっているのです。

　現代文明は宗教社会です。だから、現代文明は人間の命の説明をしません。学問もできません。ただ信じて従いなさいというのです。これが洗脳です。頭を洗うのです。学問は人間を洗脳するのです。これがユダヤ主義のやり方です。

　命の説明をしないのです。何のために人間が生きているのかを一切説明しません。これに対してイエスは言います。良心と仲良くしなさいというのです。

　「偽善な法律学者、パリサイ人」とイエスは言っています（マタイによる福音書23・13、15、23、25、26）。学者と宗教家は偽善者だとはっきり言っています。神ではないものを神にしているからです。

　イエスは訴える者と一緒に道を行く時と言っていますが、人間の人生は訴える者と共に道を行く時になるのです。百人が百人、万人が万人共に訴える者と道を行くのです。これが人生です。

同行二人

　だから、人生は同行二人になるのです。一人は社会的な皆様です。固有名詞を持ち、役所の戸籍台帳に載っている自分です。それからもう一人は生理機能、心理機能としての自分がいるのです。この二人の人間が同居しているのです。

　社会的な人間と、機能的な人間と二人いるのです。社会的な人間は固有名詞を持った人間です。機能的な人間は霊魂そのものです。心理機能と生理機能の機能性は魂です。

　魂としての人間と、日本人としての人間との二人が同居しているのです。皆様はどちらを自分だと思っているのでしょうか。

　社会的に生きている自分か、生理機能の自分を自分と思っているのでしょうか。例えば、胃腸の調子が良くないことになりますと、すぐに病院へ行くのです。熱心に病院へ行くところを見ますと、機能の方を自分だと思っているようです。

　生理機能の自分が悪いと、すぐに病院へ行くのです。病院へ行くというのは、機能的な自分を見ているのです。生きているという状態、魂というものを自分の本体だと思っているのです。

　ところが、夫婦喧嘩をするとか、家庭内トラブルがあるとか、会社で問題を起こすというのは、社会的な人間です。どっちが本当の自分でしょうか。どちらを中心に考えるかです。

　家庭の問題、職場の問題を起こしているのは固有名詞の自分です。これは必ず死んでしまう自分です。これはこの世にカルマとして生きている人間です。

　魂の方は人間の本性です。生理機能や心理機能があることが、人間の本体です。人間の本体がこの世に生まれたのです。この世に生まれた者に固有名詞を付けたのです。

　社会的に生きている人間は後天性の人間です。生まれた後の人間です。後天的な自分です。魂の方は先天性の自分です。

　皆様はこの世に生まれた時に、呼吸機能や消化機能は働いていたのです。これは先天性のものです。このように先天性の命が皆様の命になっているのです。

　社会的人間は事情境遇によるのです。どんな家庭に育ったのか。会社員であるか商売人であるかは、この世に生まれてからのことです。これは後天性の自分です。

　後天性が自分の本体か、先天性が自分の本体なのか。常識で生きているのは後天性の人間です。利害得失を考えて生きているのです。宗教を信じる人間です。

　宗教を信じるのは社会的に生きている人間です。病気であるから宗教を信じるのです。ご利益が欲しいから信じるのです。どんな理由があっても、ご利益を信じるのは社会的な人間です。

　魂人間はご利益を考えないのです。ただ命とは何であるか、命そのものを求めるのです。命そのものが先天性です。これが良心です。

　ご利益を求めるのはただの人間です。人間と良心とが同居して生きているのです。皆様は知っても知らなくても、皆様は裁判所に向って歩いているのです。

　人間は生まれたら真っ直ぐに裁判所に行くに決まっているのです。そこで裁判所に行くまでに、訴える者がしきりに忠告するのです。裁判所では社会的人間が不利になるからです。

　ところが、世間では皆社会的人間ばかりだから、社会的人間にならなければ生きていけないと考えるのです。しかし、良心は裁判所へ行くから、社会的人間の言い分は一切通用しないから、魂の言い分を聞いてくれというのです。

　そこで、皆様は常識的な自分と、良心的な自分とどちらを本体にするかということです。

　良心という字を見ますと、良いことばかりを考えるのかと思いますけれど、良心は良いことばかりを考えるのではないのです。善という言葉とは何かと言いますと、命の本性をいうのです。老子の哲学で言いますと無為です。無の働きが命を産むのです。これが善です。

　これは人間が考えている善とは違うのです。人間には考えられない善があるのです。これは最善のことです。命は善よりも尊いのです。善よりも尊い善を良心が言っているのです。これは命の本質です。命の本質が善です。

　聖書に、「神は善にして善を行われます」とあります（詩編119・68）。こういうことは日本の神にはありません。日本の神はえこひいきの神でありまして、お賽銭が多い人のことを聞いてくれるのです。

　日本の神は国家に忠義であると言えば、勲章をくれるのです。宇宙の善、絶対の善は、人間社会の利害得失とは関係がないのです。

　社会のために尽くそうが、国のために尽くそうが、善ではないのです。社会的に悪いことをするよりも、良いことをした方が良いに決まっています。この世に生きていて道徳的なことをするのは、当たり前のことです。当たり前のことが善である訳がないのです。

　人間の善というのは、神の善の敵です。なぜかと言いますと、宗教を信じることは人間の善です。宗教や道徳を信じることは、人間の善です。しかし、宗教よりも、道徳よりも、命の方が大切です。自分の金儲けよりも、自分の健康よりも命の方が大切です。

　どれほど癌だらけの体になっても、死なない命が分かったら勝です。癌よりも命の方が尊いのです。癌が治らなくても、死なない命を得る方が上です。いくら癌が治ってもやがて死んでいくのです。二百歳も三百歳も生きることはできないからです。

　命は最高の善です。永遠の命を勉強することは、最高の善の勉強をすることなのです。これをよくご承知頂きたいのです。

　皆様は今裁判所に向って歩いているのです。これは絶対的な事実です。なぜかと言いますと、人間がこの世に生まれたのは、この世の命が良いか悪いか、人間の歴史が良いのか悪いのかを判断するために生まれてきたのです。

　この世で気楽に生きるために、この世で楽しむために生まれてきたのではないのです。一杯飲むために生まれてきたのではないのです。一杯飲んでもいいのですが、それが目的ではないのです。

　恋愛をしてもいいのですが、それが目的ではないのです。本当の恋愛を見つけたらいいのです。

　本当の恋愛というのは永遠の愛です。永遠の愛は現世のことをがたがたと考えないのです。本当の忍ぶ恋であって、とても大きいものです。

　忍ばなくてもよい恋もありますが、忍ぶ恋が本当の恋です。忍ばなくてもよい恋は安物の恋です。日本の武士道でもそのくらいのことは知っています。

　人間は現世で喜び楽しむために生まれてきたのではないのです。現世で喜び楽しんだところで、必ず死ぬのです。

　皆様はもっと欲深い人間になって頂きたいのです。私は皆様よりも欲深いのです。皆様は欲がなさすぎます。現世に生きているだけで十分と思っているのです。

　現世に生きている皆様はやがて亡くなります。そこで、生きているうちに訴える者と仲良くしなさいと言っているのです。仲良くするとどうなるかです。霊魂を認識する状態で社会的に生きているとしたら、どういう生き方ができるかということです。これができるなら現世でも通用しますし、来世でも通用するのです。両方通用するのです。

　神の国と神の義があるのです。神の義は公の義であって、公の義が日本人には全く分からないのです。公の義は天地万物を貫く永遠の真理です。これが分かればこの世で損をしなくてもよいのです。

　この世でどんどん儲けたらいいのです。この世で恋愛をしたらいいのです。しかし、社会的人間だけを考えていたらだめです。永遠を考えるのです。

公義

　公義という言葉は日本語にはありません。日本では使わない言葉です。旧約聖書だけにある言葉です。旧約聖書以外では公義という言葉を使わないのです。

　旧約聖書を読んでいない人は、公義という言葉を知りません。日本には公義という言葉がないのです。

　国家社会を出てしまうのです。永遠の宇宙を貫く本当の正しさが公義ですから、公義を知って頂きたいのです。これが今の日本人に全く分かっていないのです。

　日本人は公義について全く盲目です。現世についてのことしか考えていないのです。日本人は天皇制の本当の意味が分かっていないのです。天皇とは何であるかということを、天皇陛下ご自身がご存じないのです。やがて明らかになる時が来るでしょう。

　皆様は金甌無欠という言葉をご存じでしょう。これは聖書を勉強しないと分からない言葉です。日本人は金甌無欠という言葉だけを知っているのです。これと天皇制とどういう関係があるのかを、全く知らないのです。実際愚かな民族です。

　日本には天皇制という妙なものがあるのです。今から三百年前には、天皇制はあってもなくてもどちらでもよかったのです。もしアメリカやヨーロッパであったら、天皇制は消えていたでしょう。

　日本では徳川家康という幕府ができても、天皇制はなくならなかったのです。足利尊氏が征夷大将軍になっても、天皇制はなくならなかったのです。なぜこんなことになるのか。日本人には説明ができないのです。

　幕府という大本山があれば、天皇は邪魔になるだけです。なぜ天皇制がなければならないのか。天皇陛下ご自身にこの説明ができないのです。

　日本の行儀作法、お茶やお花はここからきているのです。国体の本源からきているのです。これを親鸞は知りたかったのです。弘法大師も知りたかったのです。

　阿弥陀如来でも大日如来でも、天皇制が分かってくると、本当の意味が分かるのです。日本の天皇制は、世界歴史を貫く驚くべきものです。天皇制は神の地球計画が分からないと理解できないのです。

　地球は何のために存在しているのか。人間が生きているということ、ザ・リビング（the living）が本当の人間です。生きている人間が社会的に生活しているだけのことです。

　ザ・リビングが皆様の本体です。社会的な人間は単なる表札です。ザ・リビングが人間の命です。命と表札とどちらが大事なのかと言いたいのです。

　ザ・リビングが分かりますと、表札の自分は勝手に生活ができるのです。生活ができるのが当たり前です。これが天地の公道です。天道人を殺さずという言葉がありますように、天が私たちをこの世に生んだのですから、私たちを養っていく責任は天の方にあるのです。

　皆様は天が分かりさえすれば、生活の行き詰まりはなくなります。色々な悩み、苦しみも消えてしまいます。色々な苦しみや悩みは、自分が生きていると思っているから発生しているのです。

　私たちが現世に生きているのは、学校へ入っているようなものです。学校は卒業するために入っているのであって、学校へ行くために入るのではありません。

　人生を卒業するのです。今まで生きてきた皆様の記憶が間違っているのです。このことをよくお考え頂きたいのです。

（内容は梶原和義先生の著書からの引用）