人間の尊厳性とは何か

　現在皆様は死んでしまうに決まっている自分を自分だと考えているのです。これは大変愚かなことです。もしこのように考えていないとしたら、全く超人です。

　超人であっても、超人でなくても、死ぬのは困るに決まっているのです。困るに決まっている自分を、どうして自分だと考えるのでしょうか。

　皆様は自分で好んで死んでいくべき命を自分の命だと思っているのではないと思います。これは誰かに、そのように思い込まされているのです。

　この世というもの、いわゆる文明というものによって、世間並の思想に巻きこまれているのです。世間の人がそう考えているのだから仕方がないと思っているのでしょう。

　人間は死ぬに決まっているものだと考えているのです。

　「人間五十年、下天のうちをくらぶれば、夢幻の如くなり、一度生を享け、減せぬ者のあるべきか」

　これは織田信長が好んで舞った能の舞、「敦盛」の一節ですが、人間はこの世に生まれて必ず死んでしまう者だと考えていたのです。

　ところが人間には魂があるのです。魂は人間の本体的な存在なのです。人間と魂とは違うのです。人間は固有名詞があって市役所の戸籍台帳に記されている世間並の人間です。

　魂というのは現在皆様が生きているという事がらを意味しているのです。例えば皆様の心臓が動いていることが神の実体になるのです。

　「人間は神のかたちに、神にかたどって造られた」とあります（創世記１・26）。人間と神とは本質的に共通する原理を持っているのです。

　皆様の命は自由に価値づけ直すことができるのです。自分の命に対して自分で正札をつけることができるのです。般若心経はこのことをはっきり言っているのです。

　般若心経を愛好している人が日本に沢山います。一千万もいるでしょう。ところが般若心経の五蘊皆空が全く正確に捉えられていないのです。そのために皆様は世間並の世界観に従って考えなければならないような束縛された気持ちになっているのです。

　死なねばならないという考えは束縛されている考えです。皆様は自分の意志に従って、自分の命に対する考えを変更することができるのです。自分の命を変換することができるのです。

　自分の価値を自分が決定できるということが人間の尊厳です。自分の意志に従って自分の命を決定する資格が人間にはあるのです。これをはっきり述べたのが釈尊でありイエスでした。

　釈尊は自分の存在が空であるとはっきり言ったのです。これは世界観の転換です。今まで生きていると考えていた彼自身が、実は生きていないということを発見したのです。

　釈尊は自分が生きているという気持ちで出家したのですが、悟った結果、自分が生きていないことが分かったのです。自分自身が空であるということが分かったのです。死ぬということが空であると断言したのです。生まれてきたことが空なのだから、死ぬことも空であるということを断定したのです。これが般若心経の精神です。

　ナザレのイエスは自分が人間ではないと言ったのです。イエスは母マリアから生まれたことになっているのですが、三十歳の頃にお母さんを掴まえて、「女よ、あなたと私は何の関係があるか」と言っているのです（ヨハネによる福音書２・４）。自分の母親を掴まえて、何の関係があるかと言っているのです。

　イエスは明白に自分自身の存在を転換しているのです。皆様は自分自身の自由意志によって、自分の存在価値を変換することができるのです。世間並の人間の考えに縛られている必要はないのです。

　皆様は自分の外へ出て自分を眺めたことがあるでしょうか。文明の外へ出て文明を評価することをしたことがあるでしょうか。

向こう岸へ渡る

　般若心経はこういう事をした人間の経験をそのまま述べているのです。般若波羅蜜多ということは、向こう岸へ渡ってしまうことです。また、渡ってしまったことです。

　人間が生きているのはこちらの岸、此岸です。向こう岸は彼岸です。向こう岸へ渡ってしまうと、生きている世界が全く違ってしまいます。これが般若波羅蜜多ということです。

　般若心経をお読みになるのでしたら、これくらいのことは考えて下さい。般若心経はこの世から出ることができること、この世の外側からもう一度この世を見直すことができるという雄大な思想を述べているのです。

　イエスは私は人間ではない、生きている神の子だと言ったのです。これはとんでもないことを言っているようですが、皆様の心臓が動いていることが神です。目が見えること、手足が自由に動くことが神です。実は皆様方自身も人間ではなくて、生きている神の子です。これは間違いないのです。

　イエスは自分自身の存在を生きている神の子として位置づけたのです。これだけのことです。そこでイエスは死ななくなったのです。

　皆様が生きていることが神ですから、皆様が生きているという客観的事実の中へ、皆様の気持ちを持ち込んでしまえば皆様は死なない自分が分かるのです。

　永遠の命を見つけるための新しい世界観の創建はできるのです。誰でもできるのです。

　現在の文明は完全に行き詰まっています。文明先進国と言われる国は、皆老化現象を起しているのです。青少年の数が減少して、老人が増加しているのです。

　老人が長生きするのは、世間に何か価値がある生き方をしていたらいいでしょう。何もしていない老人がただ馬齢を重ねるだけなら、何もならないのです。

　生きている年数が三十年、四十年であっても、永遠の生命を見つけるための世界観を確立したら、皆様は死なない命がはっきり分かるのです。分かるに決まっているのです。

　もう一度言いますと、皆様の心臓が動いているということが神です。これが本当の神です。神は死なないに決まっています。日本の八百万の神々は、人間が造った神です。こんなものは神という価値はありません。

　本当の神は人間が造ったものではなくて、人間を造ったものです。人間を造った神を皆様は毎日経験しているのです。

　神を信じなくても、神を経験しているのです。現在心臓が動いているのですから、これは神を経験している事なのです。これが分かれば、死なない命を見つけることは何でもないのです。

　これを新約聖書は、「悔い改めて福音を信ぜよ」と言っているのです（マルコによる福音書１・15）。悔い改めるとはこういうことです。キリスト教ではこういう徹底したことは言いません。

　日本のキリスト教は西欧のキリスト教の宗教教義を、受け売りしているだけなのです。本当の聖書を説いていません。だからキリスト教は西洋の宗教です。これは断言できるのです。

　これに対して新しい聖書の見方を、日本から発進しなければならないのです。

　日本は新約聖書を公に認めたのは、文明国の中で一番最後でした。日本は一番遅くまで聖書を公認しなかったのです。徳川幕府は三百年の間キリシタンを厳しく弾圧してきたのです。その結果、今でもほとんどの日本人は、聖書に対して根本的なアレルギーを持っているのです。キリストという言葉を聞いただけで拒否反応を起こすのです。

　ところがこのことが、非常におもしろい現象を生じているのです。本当の聖書の見方、宗教ではない本当の聖書の見方を日本から出発させているのです。

　日本人はキリスト教に対して厳しい弾圧をしていたのです。聖書を厳しく警戒していたから、新しい聖書の見方が日本から現われたのです。

　日本はおもしろい国です。非常に興味がある国です。ユダヤ人と日本人は興味津々たる国民です。

　イエスは死を破ったのです。この人をよくよく勉強したら、皆様は死ななくなるのです。私はこれが分かりましたので、黙っているわけにはいかないのです。黙っていたら、日本人は全部死ぬに決まっているのです。これを、黙視することができないので、皆様にお話ししているのです。

　こういうことを言い出したのは私たちが日本で初めてです。世界でも初めてでしょう。般若心経と聖書を二つ並べて話をすることが、宗教ではない証拠になるのです。

　ある評論家が新聞のコラムに、現代の文明は病理社会であると書いていました。そのとおりです。日本は今病理社会です。病気になっている状態です。これは文明が本当のものではないことを示しているのです。人間の命が正当に認識されていないのです。これが病理現象を生じる原因になっているのです。

　皆様は病理状態で生きているのです。そこで五蘊皆空が頂門の一針になるのです。人間の思いは皆間違っているのです。人間の常識、知識は間違っているのです。

　現在の人間の学問には明確な目的がありません。人間の生活には役に立ちますけれど、その人間はやがて死ぬに決まっている人間です。

　皆様が般若心経の真髄をとらえないままで生きているのは自由です。しかし生きていた所でしょうがないのです。皆様がこれから何十年の生活を続けていても、ただ死ぬだけのことです。生きていてもしょうがないのです。

　死ぬに決まっている自分のことを、なぜ自分と思い込むのでしょうか。人間は現世に生活するために生まれてきたのではありません。生きるということはこの世に生きるためではありません。生きるということは命を経験することに大関係がありますけれど、この世で生活することが目的ではないのです。

　釈尊はこの世で生活するために来たのではありません。イエスもそのとおりです。現在の私もそうしているのです。ですから、この世に生きていても仕方がないのです。この世に生きていても、ただ死ぬだけです。

　人間は命についての考えが全然間違っているのです。これが現代病理の根本原因です。

　般若波羅蜜多をよくお考え頂きたいのです。彼岸に渡る知恵が必要です。

　キリスト教は西欧人が白人的な思想によって聖書を解釈しているのです。これがキリスト教の神学になっているのです。キリスト教はその神学を宣伝しているのです。

　カトリックという旧教とプロテスタントという新教とでは、相当な違いがあります。また牧師によってそれぞれ違った感覚がありまして、一口には言えない所があるのです。

　キリスト教では過去、現在、未来という見方をしないのです。仏教のような三世という考えは、キリスト教にはありません。ただ死後というのはあります。

　聖書から言いますと、死後という特別なものがあるのではないのです。現世も特別にあるのではありません。

　人生には生まれる前という時代と、現在生きている時代、死んだ後の時代はありますが、これは一つのものが続いているのです。現世と来世とが別のものではないのです。聖書はそういう言い方をしていますし、また実際に現世に生きていた人が死にますと、心霊的な状態になります。

三島由紀夫の霊

　心霊的になった魂をもう一度呼び出すことができるのです。例えば三島由紀夫の霊を呼び出して、今何をしているのかと聞きますと、今原稿を書いているというのです。以前にこの内容を詳しく雑誌に書いていました。

　三島由紀夫の霊は、現在も原稿を書いているというのです。なぜそういうことを言うのかと言いますと、現世での記憶がそのまま来世に延長されているのです。そうすると来世とはどういうものかということです。

　現世の延長としての死後はありますけれど、仏教が言うように、現世があって、また、来世があって、そして仏国浄土があるというのは宗教思想になるのです。

　宗教というのは人間の常識を基礎にして考えた教義です。これは信じても信じなくても自由です。これは現世に生きている人間の頭で考えた教義です。

　宗教が本当であるということは言えないのです。宗教はどんなものでも人間が考え出した教義であるに決まっているのです。天然自然のものではありません。

　そこで宗教でどう考えるかということよりも、実際私たちが生きていることの実体は何であるかということを単刀直入に考えた方がよろしいのではないかと思うのです。

　私たちは今生きているのです。今生きてはいるけれども命が分かっていないのです。生きていながら命が分かっていない。これはどういうことなのか。間違った生き方をしているから、そういうことになるのです。

　現在人間が生きているということを、じっくり考えれば、過去、現在、未来が自ら明日になると言えるのです。

　今生きている人間の生きざまを、じっくり勉強する気持ちになりさえすれば、人間の命の実質は十分に会得することができるのです。従って死ななくなるのです。人間の命は死なないのが本当です。死なないから命というのであって、死ぬというのは間違った命の見方をしていることになるのです。従って現世がこのまま永遠に通じるという考え方が、一番望ましいのです。

　現在生きている人間を大別しますと、二種類の人間が一人の中に共存しているのです。一つは自我意識に基づく現世人間です。市役所の戸籍台帳に記載されている固有名詞の自分です。これは現世の人間です。仏教的に言いますと俗名によって捉えられる人間です。

　もう一つは皆様の心臓が動いているという事実です。目が見える、耳が聞こえるという人格です。これは固有名詞の人間とは何の関係もないのです。

　これがなかなか分からないのです。もう一度言いますと、私は山田太郎だと思っているとします。これは現世における社会組織で通用する人格です。俗人の人間性です。

　ところが、死んでしまいますと俗人の人間性は完全になくなってしまいます。本当の人間の実体は目が見えるという事です。心臓が動いているという事です。これが生きているという実体です。

　生きているという事実と、社会的な人間である、日本人であるということは別人です。大阪や神戸の市民であるということと、皆様の心臓が動いているという事とは、何の関係もないのです。

　宗教は自我意識を持っている人間が救われること、そして死んでから幸せになると考えるのです。

　私が宗教ではないとは何を言っているのかと言いますと、命そのものを勉強しているということです。皆様の心臓が動いているとはどういう事なのか。これが本当の命そのものです。生命の実質です。生命の実体です。これが分からないのです。

　生きていながら命が分からないというのはどういうことか。生命の実体をはっきり掴まえていないから、死んだらどうなるのかという不安が頭の中で渦を巻いているのです。ここに人生の不安感または不満感があるのです。

　人生の不安、人間苦の正体は何であるか。これを突きとめて本当に命の実質を究明することが、私たちの唯一の責任です。これを命の勉強と言っているのです。

　すべて人間の行き着く所は何であるかというと、生きるか死ぬかどちらかです。永遠に生きるか、永遠に死んでしまうかどちらかです。

　これは人生で一番重大な問題です。この一番重大な問題を、現在の日本人は一番おろそかにしているのです。

　例えば仏教では死んだら極楽へ行くとか、仏国浄土へお参りするとか言います。宗派神道でも、新興宗教、既成宗教でも、現世に生きている人間が幸いになること、救われること、後生安楽を願うことを考えているのです。

　現世に生きている人間と、その人の魂の実質とは何の関係もないのです。これが分からないのです。

　現世に生きている俗人の感覚で聖書を読みますと、全く理解できないことになるのです。イエスが病人にさわったら、病気が治ったのです。そんなことはありえないと現代人は考えるのです。

　現世の常識に立脚したらそう思えるのです。本当の命を知らない状態でイエスのことを考えれば御伽話に思えるのです。

　ところがイエスは死を破ったのです。日曜日はイエス・キリストの復活記念日です。これは歴史的事実です。イエス・キリストが復活したということは、歴史的事実でありまして、全世界の歴史がこれを認めているのです。これが日曜日です。

　これは宗教ではありません。イエス・キリストが復活したということは、宗教ではないのです。人間には死なない方法があること、死を乗り越えることができるということを、イエスが証明したのです。

　これは命を勉強したら分かるのです。イエスがどういう考え方で生きていたかということを勉強すれば、皆様もイエスと同じように、死を乗り越えることは必ずできるのです。私はそれが分かっているから申し上げているのです。経験していないことを、ただ理屈だけで申し上げているのではないのです。

　イエスの角度から皆様が生きている状態を見ていきますと、皆様が生きていることが御伽話になるのです。

　皆様は自我意識で生きているのです。自我意識で生きているということは、御伽話の主人公だということです。

　例えば皆様は今まで何のために生きていたのでしょうか。分からないでしょう。これは御伽話だったという事なのです。

　普通の人間の人生で、その人が造り出した作り話、御伽話です。命の勉強をすると、自分の人生が御伽話であることが分かるのです。今までの人生が御伽話であったことが分かるのです。御伽話ではない人生とはどういうものかが、はっきり分かるのです。そうすると死を乗り越えることができるのです。

　皆様の中に二通りの人格が同居しているのです。現世に生きている人間は御伽話の人間です。日本の国があるということも御伽話です。人間の文明があるということも御伽話です。いつか必ずなくなるからです。

　人間社会も文明も、寺も教会も全部消えてしまうのです。地球そのものも、やがてなくなるのです。永遠に残るのは命の実質だけです。

　永遠に残る命の実質、実体を勉強するかしないということです。

　景色や花をじっと見るのです。そうして俗念では理解できない文化的な概念を創造する、あるいは創作するのです。こういうことは十分にできるのです。

入り口

　これは本当の命を見つけるための入り口になるのです。文学とか絵画を勉強しただけでは本当の命にはならないのです。しかし命を見つけるための入り口にはなるのです。

　文化概念のある方ほど命の勉強はしやすいのです。ただ常識一辺倒で、商売とか会社勤めだけを一生懸命にしている人は、命の勉強はしにくいと言えるのです。文学とか絵画を勉強している方ですと、命の勉強をするのに便利であると言えるでしょう。しかしこれがそのまま永遠の命に接するという訳にはならないのです。

　やはり般若心経の空を勉強して頂いて、悟りというものがどういうものかを勉強して頂きたいのです。しかし悟りだけではだめです。悟りと救いと両方がいるのです。

　釈尊は悟ったのです。人空、法空を悟った。いわゆる人間もいないし、森羅万象もないということを悟ったのです。これが釈尊の本当の思想です。

　釈尊の思想に基いて色々な大乗経典ができているのですが、仏法の真諦は何であるかと言いますと、人間は空であるということが本当の仏法の面目です。

　これが悟りです。これを涅槃というのです。涅槃とは冷えて消えてなくなってしまうことです。これによって今までの自分の妄念がなくなってしまうのです。自分が幸福になりたいという気持ちが消えるという意味では、涅槃は大変尊い悟りですが、これだけでは永遠の命に繋がっていかないのです。

　そこでイエスが死を破って復活したという驚くべき事実、人間が死を超えることができるという事実を勉強しなければならないのです。これを救いというのです。

　悟りというテーマと、救いというテーマと二つのものが、生命の勉強には必要なのです。般若心経は悟りそのものです。そこで悟りとしての般若心経と、救いとしての聖書を車の両輪として推奨したいと思うのです。

　キリスト教は悟りなくして救いの方にだけかじりつこうとしているのです。これはだめです。人間が空であることをはっきり知らないで、ただ天国へ行きたいと考えている。こういう考え方が妄念です。宗教観念は妄念であって、こういう妄念に引きずれ回されているのがキリスト教の信者です。

　私はキリスト教の人々を悪く言うのではありませんが、キリスト教の人々は聖書に書かれていることをはっきり実行していないから、このことを指摘しているだけです。

　死んだら天国へ行けるということを聖書には書いていないのです。聖書に書いていないことをキリスト教の牧師は述べているのです。そこで宗教ではない聖書がどうしても必要になってくるのです。

　現在の人間は生活のことは一生懸命考えていますけれど、生命のことを全く考えようとしていない。これは本当にばかなことです。

　生活のことは考えるけれども、生命のことは考えない。何というばかなことをしているのでしょうか。現在の日本の医者は、医学のことは考えています。肉体構造のことは考えていますけれど、命のことを考えていない。これが日本の医学です。

　人間文明はこういう間違ったことをしているのです。人間文明は作り事です。現世の人間が幸せになろうとする人間の妄念が文明という形を造り上げてしまったのです。人間の無明煩悩が文明という形態になっているのです。

　皆様は幸せになりたいという気持ちがあるでしょう。幸せというのは何でしょうか。現世に生きているままの状態で幸せになりたいと思うことが妄念です。

　幸せとは何かと言いますと、命の実質を見極めることです。命の実体を見極めることです。これが本当の幸せです。なぜ幸せになるのかと言いますと、命の実質を見極めると、皆様方は自分が生きているという事がらの実質がよく分かるようになります。そうすると皆様自身の運命はどういうものか。何のためにこの世に生まれてきたのか。何のために死んでいくのか。死んだ後にどうなるのかがすべて分かってくるのです。自然に分かってくるのです。これが本当の幸せです。

　現在の皆様は自我意識に基づいて、現世の俗人的な自分を自分だと思い込んでいるために、肝心要の命が分からないままで現世を去ることになるのです。

　日本の社会は困った社会でありまして、八百万の神々があるのです。あちらにもこちらにも神があるのです。これは人間が造った神です。現世における人間の幸せのために神があるのです。

　日本で生まれますと皆氏子になるのです。神の子になるのです。これが日本民族の習慣性になっているのです。これは生きている間は通用しますけれど、皆様の命はやがてなくなるのです。なくなるに決まっていることが分かっていながら、自分の命のことを心配しないで現世に生きている間だけのことを考えるというのは、日本人の人生観の次元の低さ、世界観の矮小さを示しているのです。

　日本人は俗的な考えが強い民族です。日本の上等な神は心霊科学の神であって、安物の神は八百万の神です。上等の神さんは竜神さん荒神さんですが、これはシャーマニズムの神です。霊交会とか霊友会とか色々ありまして、人間の生活の相談にのっているのです。

　こういうものは間違いではありませんが、現世における生活の利便の霊のことをいくら勉強しても、命の勉強にはならないのです。

　私たちが知らなければならない事は、今生きている命の実質を掴まえることです。これをしたら死ななくなるのです。しかも現世においてはっきり神と自分とのつながりが自覚できるのです。そうすると不安、不平がなくなってしまうのです。

　日本人の価値観、世界観の低さがどこにあるかと言いますと、地球が何のために存在するかということが全く分かっていないからです。

　地球が何のために存在するか、人間は何のために生きているのか。これが日本では全く分かっていないのです。全然分かっていないのです。

　大乗仏典一万七千六百巻の膨大な経典の中に、地球が何のために存在するのかということについては全く説いていません。ただ個人の悟りについて述べているのです。

　釈尊が説いたのは個人の悟りであって、全世界の救いではないのです。個人の悟りは重要なことで、本当の救いに到る入口にはなりますけれど、悟りだけでは救いにならないのです。

　涅槃は人間完成ではないのです。人間完成というのは永遠の生命の実物を掴まえて死を乗り越えることです。イエスが死を破って復活したのです。これが人間完成です。

一つの理性

　皆様一人ひとりに理性がありますが、これは全世界の人間共通のものです。例えば日本語を英語に翻訳すればアメリカ人にも理解できるのです。ドイツ語でもフランス語でも日本語に翻訳したら日本人にも分かるのです。全世界のことばはすべて翻訳してお互いに意志の疎通ができますし、思想の交換ができるのです。理性が同じであるからこういう事ができるのです。

　白人と黒人とが結婚することができますし、アジア人種が白人と結婚することができるのです。これは全世界の人間が、一つの理性で生きていることを証明しているのです。

　そうすると、人間は一種類しかいないのです。それを日本人と黒人とは全然違うとか、白人と黒人とは違うと考えているのです。人種差別をしないというアメリカで、白人と黒人との間にいつも差別が起きているのです。このような妄念で人間を見ることが間違っているのです。

　黒人でも白人でも、理性には変わりはありません。一つの理性、一つの五官の作用によって人間は生きているのです。

　命は一つしかないのです。そこで釈尊の悟りというのは、全人類の悟りを意味するのです。釈尊の悟りは全人類の明智です。

　イエス・キリストの復活は全人類の救いを意味するのです。全人類の人間完成を意味するのです。

　イエス・キリストが復活した事は、皆様が復活したのと同じ意味を持っているのです。これを承知して頂きたいのです。

　イエス・キリストの復活は歴史的事実であって、イエスが死を破ったことは、皆様が死を破ったのに同じ意味を持っているのです。

　「汝ら恐るな、我すでに世に勝てり」とイエスは言っています。イエスがこの世に勝った事は、全ての人間がこの世に勝ったことを意味するのです。

　人種とか、国家とか社会とかいうくだらない俗念を捨てて、人間の命を徹見するという気持ちになれば、イエスの復活がそのまま自分自身の復活に通用することが分かるのです。

　皆様は現在の状態でいたら、必ず死んでしまいます。死んだ後には必ず裁きがあるのです。皆様の理性は神にかたどりして造られたのです。神の理性がそのまま皆様の理性として植えられているのです。

　皆様の目の働き、耳の働きは神の機能と同じものなのです。天地を造った神の機能と皆様の五官の機能とは同じです。

　神にかたどって人は造られているのです。だから皆様は神の子としての本当の自分が分かれば、死ぬはずはないのです。ところが日本人としての自分とか、固有名詞の自分とかそういう小さな考えに囚われているから、死んでしまうのです。

　イエスの復活は全人類の宝です。宝物です。釈尊の悟りは全人類の明智です。全人類の明智と全人類の宝と、この二つを皆様に提供したいのです。

　私は皆様を宗教団体へ引っぱりこもうとしていません。むしろ宗教から出ることをお奨めしているのです。

　現代の日本の社会で、命を真剣に考えている人は一人もいません。本当の悟りが分かっていないのです。般若心経を読んでいながらその意味が分かっていないのです。

　キリスト教会では本当の十字架が説かれていないのです。十字架によって古い人間が皆死んでしまっている。このことが全然分かっていないのです。

　自我意識で生きている人間は、十字架で死んでしまっているのです。これは釈尊の悟りよりももっとすばらしいことですが、こういうことが今の日本人に分かっていないのです。神の約束が日本人に全然分かっていないのです。

　地球が造られたのは、神の約束に基づくものでありまして、この宇宙が何のために存在しているかということを、科学者は全く説明していないのです。科学者は宇宙の状態を説明しているだけです。実体の説明は全くできないのです。状態の説明は実体の説明にはならないのです。

　私たちが知らなければならないのは、状態ではなくて実体です。生きている状態ではなくて、生きている実体を知らなければならないのです。この事をお話ししたいのです。

　永遠の命はあるものです。イエスの復活は七十二億の人間の宝です。これを皆様が活用したらいいのです。誰にでも通用する宝です。誰でも掴まえることができる宝が、イエスの復活です。このことを受けとって頂きたいのです。

　大まかに言いますと、命と心と魂は一つのものです。概念としてはそのように申しますけれど、皆様が実生活に置いて命の勉強をしようと思われますと、命と心と魂は皆違ってくるのです。

　魂とは何であるか。これが本当に説明ができる宗教家は一人もいないのです。魂という言葉は大乗仏教の経典にはありません。これは聖書独特の言葉です。宗派神道にはあります。例えばＰＬ教団とか天理教には魂という言葉がありますが、仏教にはありません。

　なぜ仏教に魂がないのかと言いますと、仏教は無神論ですから魂という概念が成立しないのです。

　魂というのは神から出てきたものということです。神とは何かと言いますと宇宙の本源です。生命の本源です。命の本源です。そこから出てきたものが魂です。神を認識しないと、魂という語法が成立しないことになるのです。

　仏教に魂がないということは不思議でも何でもない。当り前のことです。

　キリスト教では魂と言います。聖書には魂という文字がありますけれど、魂ということを具体的に説明できる牧師さん、神父さんはいないのです。

　日本には本当の神の実物を経験している牧師さんがいないのです。これは困ったことです。神学校を卒業すると皆一人前の先生と言われるのです。先生にはなりますけれど、神学校では魂の実体を教えないのです。ただ学校を卒業したらいいのです。

　そういう神学校制度、仏教大学という制度が、宗教を腐らせてしまったのです。こういうものは釈尊の時代もイエスの時代にもなかったのでありまして、こういう制度ができますと、仏典も聖書も全部嘘になってしまうのです。

　魂というのは現実に人間が生きていること、神の機能が肉体をとって現世にいることを魂というのです。皆様の五官の働きの実質が魂です。

　肉体は実在しているのではありません。肉体はあるように思えますけれど、実は瞬間、瞬間、変化しているのです。昨日の皆様と今日の皆様とは、健康状態が少し違うのです。食べるもの飲むものが皆違いますから、毎日、毎日、肉体状態が変わっているのです。

　人間の肉体細胞は数ヵ月で全部新しくなるようです。

　ただし脳細胞だけはかなりの時間がかかるようですが、それでも新しくなるのです。そのように人間の肉体は流動的に存在しているのです。川が流れるように、風が流れているように、人間の肉体は存在しているのです。

　従って肉体という固定的なもの、個体的なものは実は存在していないのです。これが色即是空ということです。

　人間が肉体的な条件で生きていることが魂です。これは固有名詞の自分とは関係がないのです。皆様の心臓が動いていること、目が見えることが魂です。

　心には精神（マインド）という面と、ハートという面とがあります。これは皆様の心理機能です。命というのは宇宙に一つあるだけです。皆様個人個人に命があるのではありません。一人ひとりの命があるのはないのです。

　自分独自の命、自分の命があると思うのは、自我意識の妄念でありまして、皆様は宇宙の命を使っているのです。

　命は一つ、理性は一つです。だからイエスの復活が人類共同の宝になるのです。命と心と魂の関係はこのようになるのです。

　仏教では金剛不壊(こんごうふえ)と言います。極めて堅固で決して壊れない志を、堅く守って変えないことを言いますが、これは概念です。仏教にはこういう言葉はありますが、その実体がないのです。

　命の実質を掴まえますと、本当の金剛不壊が分かるのです。皆様の命の実質は、実は神です。ところが神と言いましても、日本人には分からないのです。日本人の神という概念が間違っているからです。

　天地を造った神が、日本人にはどうしても分からないのです。大工が家を造るように神が天地を造ったと、キリスト教では言いますが、これが全然違っているのです。

　天地を造るということは何か。風が流れていること、雲が流れていることが神ということでありまして、地球の自転、公転がどのようになされているかということを知ることが、神を知ることになるのです。

　科学も哲学も本当は神を勉強しているのですけれど、神というものに到達するまでにやめてしまうのです。だから学問では神の実体が分からないのです。

　皆様の心臓が動いているという事実が、金剛不壊そのものです。その実質、実体は何であるかということが理論的、理性的に分からないと、理性が救われないのです。理性が救われる様な勉強をして頂きたいのです。

　仏典の正信偈に、帰命無量寿如来という言葉があります。他力本願の勉強をなさっている方は誰でもご存知の経典の文句です。無量寿は死なない命です。如来というのは真如のごとく来るという意味です。

　人間は真如のようにこの世に生まれて来たのです。真如というのは神の英知の面だけを取り上げているのです。

　神には全知の面と全能の面と両方ありますが、神の全知のある部分を取り上げると真如になるのです。神の英知ある部分が人間の形を取って地上に来ているのです。従って皆様は如来です。

無量寿如来と無量光如来

　なぜ帰命無量寿如来という言葉があるかと言いますと、大無量寿経というお経の中に法蔵比丘というお坊さんが悟りを開いて、自分自身の当体は無量寿如来と無量光如来であると悟ったのです。そうして阿弥陀仏になったのです。これが大無量寿経の内容です。仏説阿弥陀経はこれをベースにして書いているのです。

　無量寿如来というのは人間の本質は無量の命です。宇宙にただ一つの命の大生命は絶対に死なない命です。この命が何十億に分散して今皆様が経験しているのです。これは人間だけではありません。森羅万象はすべて神の命をそのまま現わしているのです。木も草も土も、空気も水も、すべて命が表現されているのです。

　部屋の中には空気として神の命が流れているのです。そのように、宇宙の命が地球に一杯につまっているのです。これを生物現象と言いますが、これは宇宙に一つしかない命を生物全体が共有しているという意味です。

　皆様は無量寿としての命を持っているのですから、このことが分かればすぐに幸せになれるのです。

　だいたい現世に不幸があるべき道理がないのです。自分は不幸だと思っているだけです。実は本当の不幸とは無量寿としての命を知らないことです。

　人間は現世に生きるために生まれてきたのではないのです。現世にいる人間は死ぬために生きているのです。死ぬために生きているのは、ばかばかしいことです。

　肉体人間は死ぬに決まっているのです。そこで生きている間に無量寿如来に帰命するのです。人間は無限無量のように現世に生きているのですから、皆様の命は如来さんと同じ命です。このことが分かればいいのです。

　自分の命を解脱して、本当の命に帰命すれば、死ななくなるのです。これをするために人間はこの世に生まれてきたのです。

　こういうことをすることを観自在というのです。観世音です。観自在と言っても観世音と言っても同じことです。これをすることが人間の目的です。この世で生きることが目的ではない。観世音になることが目的です。誰でも観世音になれるのです。私は観世音になっていますからこういうことがお話しできるのです。

　イエスの復活が分かれば現世を超えてしまいますから観音さんになってしまうのです。神の約束が分かれば、天地がなぜ造られたのか、地球がなぜ自転公転しているかが分かるのです。

　近代学というのはユダヤ人の発明です。これはキリストに反抗する思想から出ているのです。

　人間はこの世で生きている間にイエスの復活を受け取るために生まれてきたのです。皆様はせっかく地上に生まれてきたのですから、その命をできるだけ有効に活用して、死なない命を見つけて頂きたいのです。これが本当の幸せです。

　現世で豊かな生活をするのではない。現世でおもしろおかしく生きるのではなくて、命の実質を見極めることが本当の幸せです。

　ナムアミダブツというのは阿弥陀如来に帰依することですが、皆様の本体が阿弥陀如来と同じものであることを分かって頂きたいのです。イエスを信じたらこれが分かるのです。

　イエスを信じることと、如来に帰依することは同じことです。如来には世界歴史の説明はできません。これは抽象的に造りあげた人格だからです。具体的に歴史的に実在していたのではないのです。阿弥陀さんという人が本当にいたのではないのです。

　イエスの復活を勉強しなければ、永遠の命の実物を掴まえることができないのです。

　自分自身の生をよくよく見極めようという熱心さがあれば、必ず分かるのです。今までの日本人の常識で世間並に生きていますと、必ず死にます。自我という虚妄の人格を信用して生きていると、間違えた人生観を持ったままで死んでしまうのです。

　死んだらどうなるのかと言いますと、間違った記憶を持ったままで黄泉(よみ)へ行くのです。これが恐ろしいのです。

　だから現世に生きているうちに、目の黒いうちに命の実体を掴まえることです。皆様の心臓が動いていることは何であるのか。これが神という事がらです。神というのは事がらです。これを霊というのです。

　皆様が生きているという事がら、目が見えるという事がらが神です。これを掴まえたらいいのです。そうすると死ななくなるのです。

（内容は梶原和義先生の著書からの引用）