神の深み

歴史は神の物語（God's story）です。これは彼の物語（his story）と言ってもいいのです。歴史はヒストリー（history）ですが、これは、his storyに大きな関係があると考えられるのです。

歴史だけではありません。森羅万象がヒズストーリーです。歴史の流れも神の物語です。その真似をして書いているのが文学です。

人間の文学は自然現象を描写したり、人の世の姿、あり方、人間の営みの佇いを描写しているのです。人間の文学作品でも、絵画でも、詩、歌でも、音楽でも、すべて芸術というものは、神の物語の描写をしているのです。

物語ではない芸術は有りえないのです。筆作りの名人が、一本の筆を作ったとします。これはすばらしい芸術的な作品であると人が言ったとします。芸術的な作品とは何を現わしているのか。人々は芸術という言葉を心やすく使いますが、芸術とは何でしょうか。

西鶴は、「好色一代女」「好色五人女」「日本永代蔵」「世間胸算用」など、色々な小説を書きました。これは一体何を書いていたのか。近松門左衛門も「曽根崎心中」「心中天の網島」「冥土の飛脚」などを書きました。これは一体何を書いたのか。また、読んでどういう効果があるのかということです。それには人生の哀感が出ているのです。人生の哀感とは何でしょうか。これを辿っていきますと、神の深みが分かるのです。

音楽でも絵画でも同様です。じっと絵を見ていますと、そこに文学では現わせないものが出ているのです。また、絵や文学では現わせないものが、音楽に出ているのです。音楽や絵画や文学や詩歌などを集めてみると、どうやら神の深みが、ちらっと見えてくるのです。

では、神の深みとは何かと言いますと、これが物の哀れです。

王朝文学には特にそういう人生の影が出ているのです。小倉百人一首にはそれがよく出ているのです。和歌、短歌の中に色恋沙汰が多く出ていますが、これは一体何を示しているかです。恋愛の本質を知らないで、ただ肉欲の恋愛になだれこんでいる人間の哀れさが出ているのです。肉欲の虜になって、蟻地獄に落ち込んでいく姿が出ているのです。

西洋文学にもあります。「椿姫」とか、「赤と黒」とかいう小説にも、人間が人間の肉の思いの中におぼれこんでいく様子が描かれているのです。現世にそういう地獄が口を開けて待っているのです。名作文学には皆そういうものが出ているのです。これが物の哀れです。こういうことが神の深みです。

物の哀れとは何か。物の哀れ程度なら、何とか文学でも書けますが、物の哀れの本質については書けないのです。芥川龍之介はこれを書こうとしたのです。これを書こうとして、自分自身が自分自身の壁にぶつかったのです。そうして潰れて死んでしまったのです。これは本当の文学者だと言えるのです。

本当の文学者は、物の哀れの本質をいぬいてやろうという大野心を持っているはずです。芥川はそれに挑んだのでしょう。それができなかったので、死んでしまったのです。いつも将来への不安、自分の未来に対する不安が、彼の心の中に漂っていたのです。彼は本当の文学者でした。しかしまだ、本質を書ききれなかったのです。彼はエホバの御名を知らなかったからです。イエスの御名を知らなかったからです。彼は聖書を読んでいましたが、キリスト教の聖書は分かっていましたが、本当の聖書は分からなかったのです。その結果、自分自身の志が自分の壁にぶつかってしまった。そこで潰れてしまったのです。

この肉性の壁をつき破って、向こう側へ出てしまわなければ、本当の神の深みは分かりません。私は皆様と一緒に、そこへ行こうと思っているのです。そこで皆様自身も、自分の肉性をぶちぬいて、向こう側へ出るというほどの勇気を持って頂きたいのです。自分の壁を自分でぶち破って、向こうへ行くのです。

私はそのお手伝いはしますが、皆様自身の壁をあけるのは、皆様方自身しかできないのです。人間のお産なら帝王切開によって産むお手伝いもできますが、新に生まれるという魂のお産は、そういうことは許されないのです。自分自身で新に生まれなければいけないのです。

エデンの園でアダムが罪を犯した。これは一体何をしたのでしょうか。善悪の木の実を食べたとありますが、これは何をしたのでしょうか。

陥罪ということは、悪魔が女に言ったように、目が開かれたことです。目が開けたとは何かと言いますと、神のごとくになって善悪を知ったのです。

目が開けるというのは何を意味するのか。目というのは見るためにあるのです。目が開けるとはものの見方が全く変わってしまったことを意味するのです。世界観、価値観が変わったのです。世界観と価値観の根底が、がらっと変わってしまったのです。これが陥罪の実体です。

世界観と価値観が全然変わってしまった。罪を犯す前の世界観、価値観は、善悪の木の実を食べない価値観です。善悪の木の実を食べるということは、利害得失を考えることですが、善悪利害を一切考えない状態で、アダムは生きていたのです。それが、善悪の木の実を食べた結果、善悪利害を自分で判断する人間になってしまったのです。

本来、善悪利害を判断するのは、人間がしてはいけないことです。神がすることです。神のごとくなったというのは、自分で自分の価値を決定することになった。自分はこれでいいのだ、いや悪いのだ、自分は損をした、得をしたと考えるのです。自分の立場で善悪利害を考えることが、神のごとくになったということです。これを皆様もしていないでしょうか、していたら罪です。

自分の立場から、自分は損だ、自分は得だ、あの人は善人だ、あの人は悪人だと考える。あの人は好きだ、あの人は嫌いだと考えるのです。慈悲曲直、善悪邪正とか、利害得失、毀誉褒貶、好悪美醜を判断するのは、すべて神であるはずです。これを人間が判断すれば、必ず自分の立場に立って、自分の都合の良い判断をするに決まっているのです。人間の人生はわずか百年です。しかも、地球という限られた場に立ってしか判断できません。本当の判断は無限の空間、広大な宇宙全体と、永遠の時間に立たなければできないのです。これが本当の公平、無私です。これができるのは神だけです。

ところが、これを今人間がしているのです。私の顔はきれいだと思ったり、きたないと思ったりしている。こういうことは自分で決めるべきことではないのです。女の価値を決めるのは男です。人間自身の価値を決めるのは、人間ではない。神です。自分の立場を基準にして見て判断することが、人間の罪の本性です。

例えば、自分がここに生きていると自分が考える。生きていると考えるのは判断しているのです。一メートル何十センチで、何十キロの自分がいると考える。これは自分の考えを絶対にしているのです。

自分の考えを絶対にするということが、神のごとくになっているということです。絶対というのは、神であって、人間は絶対ではないのです。人間は神の被造物です。神に生かされている存在です。従って、人間の立場で人間の考えを絶対だと考えることは、すべて間違っているのです。

皆様はこれをできるだけ正直に、また、精密に、自分の立場で自分を判断しないように訓練をしなければ救われません。自分の立場から、良いとか悪いとかを決めないのです。自分の立場から、得とか損とかを考えない。このことだけでも、ずっと楽になるのです。

自分の大脳の中で、二十四時間働いている推理、直感、判断、記憶という四つの生き物は神が絶対であって、生き物自身が絶対になっていないのです。生き物はただ機能として働いているだけです。皆様の心理機能は、機能としてだけ働くのでなければならないのです。自分の立場から、善悪利害を判断してはいけないのです。

自分でいいか、悪いかを決めないのです。意見は述べてもいいでしょう。しかし、自分の意見を絶対だと考えてはいけないのです。こういう気持ちで生きていますと、御霊が助けることになるでしょう。自分の気持ちでいいか悪いかを判断していると、御霊はその人を助けてくれないでしょう。

誰でも自分の気持ちが正しいと考えます。自分の立場で考えようとします。だから、かえって生活が苦しくなるのです。かえって自分の気持ちがうっとうしいのです。いいにしても悪いにしても、人間は自分の考えにひっかかっているのです。これが罪です。自分の考えにひっかからないで生きている人は一人もいない。だから、人間は生きていることが罪なのです。一時間生きていれば一時間の間、自分の考えにひっかかっている。十年生きていれば十年の間、自分の考えにひっかかっているのです。これが因縁の根です。

天理教や他の宗教では、因縁の根が分からない。なぜ人間に因縁があるのか。前世の因縁の本性は何であるのか。前世の因縁のその前は何であったのか。前前世のその前は何なのか。だんだん溯ると、宗教では全く分からないのです。聖書を見れば分かるのです。聖書は、人間が因縁を作り始めた根本原因を書いているのです。それは、人間が自分の立場で判断するようになったということです。これが神のごとくなったということです。これが因縁の根本原因です。罪です。

これを慎んで生活するようにして頂きたいのです。そうしなければ、信仰は全うできないのです。罪の生活を毎日おくっていたのでは、いつまでたっても御霊を受けられませんし、御霊を受けても成長しないのです。

物の見方が変わってしまったのです。そこで本当に救われるためには、どうしたらいいのか。御霊によって物の見方をまた変えたらいいのです。善悪の木の実を食べて見方が変わったのですから、今度は御霊を受けて、見方を変えたらいいのです。御霊は命の木の実です。御霊ご自身は命の木ですから、命の木の実を食べたらいいのです。

十字架を受け取れば、命の木の実が食べられるのです。命の木の実を食べて、命の立場から見るようにする。自分の気持ちをひっくり返したらいいのです。これが救いです。

これがエデンに帰ることです。エデンに帰ったらどうなるのか。アダムはエデンにおいて、罪を犯す前にどのような生活をしていたのか。これは土のちりで人を造ったことから、深く考えていかなければならないのです。土のちりとは何であるのか。これから考えていかなければならないのです。これはすばらしく深いことになるのです。

今私たちに神の秘密の封印がとかれようとしている。やがてこの秘密が全世界に伝えられることになるでしょう。そうしてイエス・キリストの世界が現われることになります。キリストによる千年王国が現われるのです。そのための下準備を私たちが今やらされつつあるのです。

千年王国が現われるためには、どうしてもユダヤ人がイエス・キリストを信じなければならないのです。ユダヤ人がイエスをキリストとして信じることができなければ、キリストは絶対に再臨しません。

キリスト教はここが完全に間違っているのです。再臨について間違っているのです。とにかく、キリスト教はめちゃくちゃなことを言っているのです。聖書に書いていないことを、勝手に話しているのです。キリスト教の教えは悪魔の教えみたいなものです。

ごく初歩の人なら、これでもいいでしょう。聖書を読むだけでも、読まない人よりましでしょう。しかし、いつまでもキリスト教の聖書の勉強をしていると、悪魔と同じものになってしまうのです。宗教はすべて悪魔の考えです。キリスト教だけではない。あらゆる宗教は全部教えです。宗教は人間の教えです。

聖書は教えてはいけないのです。人間が人間に教えたら、必ず間違えるのです。私は教えてはいないのです。人間の罪が何であるのか。人間の間違いが何であるのかということを、聖書に従って、皆様の前に見せているだけです。教えるというのは、自分の意見を説くのです。自分の考え、自分の集団、自分の教派の考えを述べることが教えです。

私は人間が現在生きているままの状態を裸にして、陳列しているのです、示しているのです。教えるのではないのです。人間の現状を示しているのです。これが預言です。預言と宗教とは全然違います。預言者と教師とは全然違います。教師は人に教えます。ある宗教、ある教派の教えを教えます。自分の解釈で説明するのです。

私は現在皆様が生きている姿を、聖書に従って見せているのです。皆様の内面を見せているのです。人間は生きていながら、自分の内面が分からないのです。何を考えているのか分からないのです。それを外に出して見せているのです。これは教えているのではありません。それで皆様は、なるほどそういうことかと驚くのです。自分の内面のことだから聞けば分かるのです。これが示すということです。

教えるというのは、知らないことを教えてもらうのです。例えば、数学の原理を人に教えてあげるのです。知らないことを教えるのです。私は皆様の知らない皆様自身の内面を、示してあげるだけです。

人間は神に生かされているのですから、神の深みが分かってくると、自分が生かされている深みが自然に分かるのです。神の深みとは、自分が生かされていることの深みです。これが分かると、初めて十字架が分かってくるのです。

心を替えるとはどうすることか。世界観や価値観が、エデンの園でひっくり返ってしまった。神的な世界観を持っていたアダムが、悪魔的な世界観を持たされてしまったのです。

これは人間の魂が悪魔によって犯されたことになるのです。そこで、現在の人間の考えは悪魔に犯された考えになっているのです。

そこで、皆様は何を考えても、考えることが皆罪人の考えになるのです。何を考えてもだめです。考えることが皆、因縁を積んでいることになるのです。考えれば考えるほど、いよいよ罪を犯すことになるのです。だから、考えることをやめたらいいのです。ただ認めたらいいのです。信じたらいいのです。

イエスは、「恐れるな、ただ信じよ」と言っています。ただ信じたらいいのです。これを行いますと、失ったものをもう一度取り返すことができるのです。神的に見るという世界観を、甦らせることができるのです。

救われるということは、実は復活することです。イエスはかつてこの地上に生きていた時に、「私は甦りである、命である」と言っていたのです。これは復活する前です。十字架にかかる前に、甦りであると言っています。

これは何か。罪人である人間が、罪人ではなかった時の人間になっていくのです。これを甦りというのです。「私は甦りである、命である」（ヨハネによる福音書１１・２５）。皆様も甦って下さい。本来の人間に帰るのです。罪を犯す前の人間に帰るのです。その時皆様は、自分の考えが皆間違っていたことが分かるのです。

生まれる前の人間、罪を犯す前の人間に帰るのです。これを水のバプテスマというのです。水によって人間の肉体が消えてしまうことを、水のバプテスマというのです。

聖霊のバプテスマというのは、神の知恵が自分の知恵になることです。水のバプテスマと聖霊のバプテスマ、「水と霊とによって新しく生まれなければ、神の国に入ることはできない」（ヨハネによる福音書３・５）とイエスが言っていますが、これをはっきり実行するのです。このとおりに実行するのです。

御霊は神の深みまで教えて下さるのです。心の底の底まで、教えて下さるのです。生かされていることの心の底まで見破って、神が教えて下さるのです。そこで皆様は、自分自身を神に委ねることができるようになるのです。

そうすると、今まで考えていなかった世界が見えてくるのです。人の心に未だ思い浮かばなかったこと、現世の人間が考えてもみなかったことが、見えてくるのです。これが神の国と神の義です。

神が愛する者のために、人の心に未だ思い浮かびもしなかったこと、人間が考えられなかったことを、神が準備して下さる。これが福音の真髄でありまして、神ご自身の深みまで、御霊が教えて下さるのです。

（内容は梶原和義先生の著書からの引用）